ひところ対立がどうだと散々趣味者間で喧々諤々だったけれども、そんなものはとっくに基本方針が固まってたという話。以下、朝日新聞からの引用。
1989年10月2日月曜日14版第2社会面
結んでひらいて
新幹線四半世紀
喪服の男が三人、東京・内幸町の帝国ホテルの日本料理店で顔を合わせた。
「リニアモーターカーについて、三社間で意見の食い違いがあると言われるのは心外だな。今後は三社が一致しているということでいきたいね」
JR西日本の井手正敬社長が口火を切り、JR東海の葛西敬之乗務が「経営権のことで争いになるようでは困ります」と引き継いだ。
一元的経営を確認
JR東日本の松田昌士常務を含めた三人は、この日、近くの築地本願寺で営まれた、旧国鉄・JR関係の物故者追悼法要のあと落ち合ったのである。
約一時間後、三人は次のことを確認した。
「中央リニア新幹線は、東海道新幹線を経営するJR東海が一元的に経営する。リニア開業で、東京-甲府間と、大阪-奈良間のJR在来線での収入減などの影響については、各社間で十分に考慮して経費の配分をする」
三人は、国鉄の分割・民営化の中心的役割をはたして「改革三人組」といわれ、今はそれぞれ各社の中枢にある。
この席には運輸省の幹部一人が立ち合った、とされる。
今年三月中旬のこの会合は公式なものではないので極秘とされ、合意事項もはっきりとは表に出ていない。
表向きは、JR東海だけが打ち上げているかにみえる中央リニア新幹線について、水面下では、固まりつつあるところも出ている。
未知の部分が多数
満杯に近づきつつある東海道新幹線のバイパスとしてJR東海が悲願とするリニアは、旧国鉄時代から研究されてきた。宮崎健日向市の実験センターで浮上走行実験が繰り返され、今年八月、運輸省が山梨県に新実験線を建設することを決めた。同省の検討委員会は、開業のめどを二〇〇三年としているが、その駅やルートは白紙とされる。
超伝導による強い磁気によって車体を浮上させて時速五〇〇㌔の高速を生み出し、東京-大阪を一時間で結ぼうというリニアは、磁気の影響や電力消費など未知の部分が多く、その建設費用を含めて、JR各社間でも賛否が渦を巻いている。
昨年一月、日向市の実験センターで、技術陣を極度に緊張させた試乗会があった。
心臓にペースメーカーを着けているJR東海の三宅重光会長がその中に含まれていたからだ。超伝導磁石の磁気がペースメーカーを狂わせるのではないか。止まったりしたら。
須田寛社長は何度も「お控えになってはどうでしょうか」と慰留した。会長は「大丈夫ですよ」と笑みを浮かべて、「妻とは水さかずきをしてきたから」と冗談のように言って乗り込んだ。名古屋から同行した主治医が会長の横に並んだ。
実験は七㌔の実験線を三分足らずで走破し、三宅会長は無事だった。
実験にあたっている鉄道総合技術研究所によると、キャッシュカード、テレホンカードは大丈夫だが、一部の時計は止まる。そこで客室の座席の下の超伝導磁石の装置を車体の両端に移し、時期遮へいを十分にする、などの方法が検討されている。
「リニアの東京駅」はどこになるのだろうか。
東京都は「できれば新橋の旧汐留駅跡地にターミナルを」とも考えているようだ。
都市開発とも絡む
広さ二十一・六㌶。銀座や浜離宮公園に囲まれた、都心では数少ない開発可能な空間だ。近い将来、都営地下鉄12号線が入り、臨海副都心「東京テレポートタウン」を結ぶ新交通システムの起点にもなる。
汐留駅跡地内に新しく作る道路は、幅が三十㍍あれば足りるという。しかし、この下を入ってくるリニアの工事を想定して、十㍍広い四十㍍にする計画という。
駅もルートも、これからの話で、リニアそのものの必要性についても、見方は分かれる。
しかしリニアは、国をおおうダイナミックな衝撃をはらんだ共同の夢として、人々の頭の中でそれぞれに走り出そうとしている。(おわり)
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